ゴッホ《ひまわり》は有名な7点以外にも花瓶のない《ひまわり》があるんです。
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ゴッホの《ひまわり》について考えてみた
フィンセント・ファン・ゴッホの代表作といえば《ひまわり》を思い浮かべる人が多いでしょう。もちろん、私もその1人です。
《ひまわり》1889年1月制作
このように花瓶に入っているものを想像する人がほとんどではないでしょうか?
SOMPO美術館で開催されている「ゴッホと静物画ー伝統から革新へ」では、有名な《ひまわり》はもちろんのこと、花瓶に入っていない状態の《ひまわり》も展示されていました。
その「花瓶のないひまわり」作品は、世界に4点現存しています。
ゴッホがフランス南部のアルルに移り住む前に、短期間暮らしたパリ・モンマルトルの近くには農園があって、ちょっとした田舎の風景が残っていたそうです。
そこで気に入った「ひまわり」を切って持ち帰り、机に置き静物画の練習として描いたのだと思われます。
こちらはSOMPO美術館で開催中の「ゴッホと静物画」展で、観られる「花瓶のないひまわり」タイトルは《結実期のひまわり》(1887年8月〜9月制作)。
とても素早く筆を動かして、ササっと描いたという感じがします。普段はアムステルダムのゴッホ美術館に保管されています。
正直、何の絵かな?と思うほどラフに描いていますが、黒っぽい太い輪郭線や色の組み合わせ、特にひまわり全体と背景のグリーンがゴッホの色彩研究という感じがします。
残り3点の「花瓶のないひまわり」も同じ1887年に描かれ、ニューヨークのメトロポリタン美術館、スイスのベルン美術館、オランダのクレラー・ミュラー美術館に保管されています。
これら4つの花瓶のない「ひまわり」は、描いた順番はわかっていません。時期は手紙など(ゴッホは手紙魔)などで見当はついているのですけれど。
また、いまSOMPO美術館で展示中の《結実期のひまわり》は、大雑把に描いているように見えますが、メトロポリタン美術館、ベルン美術館、クレラー・ミュラー美術館のものは、種の部分に注目し描いているのが特徴です。
《結実期の四輪のひまわり》(1887年8月〜9月)クレラー・ミュラー美術館所蔵
こちらの作品は、すでに元気な状態から枯れはじめていく姿を描いています。また茎の切断面や右端の花は裏側を描いています。
こういう花の裏(後ろ側)などを描いた作品ってあまり観たこともないので、やはり色の組み合わせや、花という対象について細かく研究と練習をしている作品なんだろうなと考えます。(個人的にですけれど。)
ただ、元気が無くなっている花にしては、花びらに鋭さがあって、ゴッホの心の奥底が表れているのではないかと感じます。
ゴッホの絵に対する情熱と研ぎ澄まされた感覚ですかね。
あと、背景の暗めの青色。これはひまわり花びらのオレンジ色ぽい部分を互いに補い合っています。
こういう色の合わせ方を花などの静物を描くことで試していたようです。実際手紙にもそのようなことが残されていますし。
わたしは、もちろん有名な《ひまわり》も好きですけれど、このクレラー・ミュラー美術館の《結実期の四輪のひまわり》が名画に思えて。もっと評価されていいのではと思ってしまいます。みなさんはいかがですか?
実は、クレラー・ミュラー美術館にある《結実期の四輪のひまわり》は、いちど盗難にあっています。
犯人(グループだったかな?)はマーケットで売る事ができず、買い戻しを要求。その過程で逮捕され、絵も無事に帰って来たという事件がありました。美術の盗難事件や贋作事件は、今でもありますからね。。。
《フィンセント・ファン・ゴッホの肖像画》
このブログで挙げた4作の「花瓶のないひまわり」のうち、2作は何とゴーギャンと交換していたのです。(朽木ゆり子著、「ゴッホのひまわり 全点謎解きの旅」、集英社、2014年、66p~68p)
その後、ゴーギャンは手放してしまいますが。
1888年2月、ゴッホはパリからフランス南部のアルルへと移り住みました。しばらくは一人の生活でしたが、そこへゴーギャンがアルルへ向かうという手紙が届きゴッホは大喜びします。
きっとこの時ゴッホは、2枚の「花瓶のないひまわり」とゴーギャンの作品との交換を思い起こしたのではないか?
ひまわりの花言葉は、あなただけ見つめる、憧れ、太陽の恋人、希望など。そして西洋では忠誠心、信頼という意味があります。
ゴーギャンと親しくなり、共感できる部分を感じ取ったゴッホは、彼とともにアルルで芸術家村を作っていくんだとひとり考えました。
また、パリで2作の「花瓶のないひまわり」とゴーギャンの作品を交換したことから、改めて以前よりもずっと素晴らしい《ひまわり》を描く。
それをゴーギャンの部屋に飾ることで、ゴッホ自身の想い、それは先に挙げた花言葉の意味につながり、例えば「忠誠心」、「あなただけを見つめる」、「信頼」という心の中の言葉を伝えたかったのではないかなと思えます。
結果的には、二人の共同生活は破綻してしまいますが、「花瓶のないひまわり」と皆が良く知る《ひまわり》には、関係性がありそうな気がしませんか?
こういう考察をしていくこともアートの面白みのひとつです。
ゴッホの作品は、たくさんアート傘として販売していますので、ゴッホ好きな方、アート好きな方は一度どんなアートの傘があるのかご覧になってください。
美術検定1級アートナビゲーター持ってるスタッフより